ダルいズム。
□憂鬱遊園地
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風祭はオレンジジュースを飲んで顔をしかめる。
氷はすっかり溶けきり、薄い云々以前の問題だった。
その上ぬるい。
しかし、風祭が顔をしかめているのはジュースが原因ではなかった。
イギリス留学時代、確かに風祭は皇帝のあだ名で呼ばれていた。
しかしそれはカードの腕の事ではない。
とは言え弱かった記憶はなく、そこそこの腕前だった自負はある。
なのに。
「あー、負けちゃいましたねィ」
目の前の男はにやにや笑ったままカードを返した。
ワンペア。
対する自分はスリーカード。
今ひとつ釈然としない。
「なあ」
「はィ?」
ばらばらとカードを操っていく佐々岩に声をかける。
負け通しではない。
勝敗は半々で、このままではお互いに自分で煙草を買う事になりそうな数字。
「お前、イカサマしてないか?」
一瞬動きが止まる。
す、と目線が風祭に移り、にやりと笑った。
「何でですかィ、俺も負けてるでしょ?」
「ああそうだ。でも何でお前が勝つ時は八割方ロイヤルストレートフラッシュであがるんだ?しかも俺が強い役の時に限って」
「やー、たまたまですってェ。俺勝利の女神に愛されちゃってる男なんでェ」
佐々岩は相変わらずにやにやしている。
のらりくらりと、正体のない男だ。
そこが腹立たしい。
手品のどや顔も腹立たしいが、イカサマを使ってプラスマイナスゼロにされる方がもっと腹立たしい。
完璧になめられている。
接待ではないのだから、やるならもっと徹底的にすればいいものを。
風祭はオレンジジュースを飲み干すと勢いよく立ち上がった。
「納得いかん。というかムカつく」
「だから使ってませんってェ。たまたまですよ、たまたま」
「八割方最強ってどんなたまたまだ!お前はゴッドハンドか!教師なんかやってないで宝くじでも買え!!」
ずんずんと足音も荒々しくゴミ箱に向かう。
カップをねじ込むとまた勢いよく座った。
「まだやるんですかィ?」
「バカにされたまま引き下がれるか。最後に一回、本気でやれよ」
「初めから本気ですけどねィ」
に、と佐々岩が笑う。
やっぱり遠足の引率なんか大嫌いだ。