short story
□砂
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ある日のことだ。倉庫に一人の男がやって来た。
普通の服を着ており、目出し帽もサングラスもしていなかった。
そして、昼間だった。
彼は警察官で、誘拐された子供がここに連れてこられるのを見たと言う情報を頼りにこの倉庫までやって来たのだ。
男は倉庫に近づき、ドアを見つける。
そしてそのドアのノブをゆっくりと回した。
彼は中の光景に息をのんだ。
薄暗いはずの倉庫の中は柔らかな光りに包まれ、少女が一人、砂山の上で眠っている。
光の原因は、砂のようだ。少女は光の中で眠っている。
男が倉庫の中に足を踏み入れると同時に少女が跳ね起きた。
「だれ?」
眠そうにたずねる。
男はまわりに誰もいないか警戒しながら少女に近づいた。
「僕は、君を助けに来たんだよ」
「助けに?」
しばらくぼうっとしてから少女は嬉しそうに手をたたく。
「嬉しい。あたし、ずっとここに一人だったの」
一人?おかしいな、そんなはずは……
「ねえ、近くに来てくれる?」
男は少女の言葉に、安心させるようにうなずくと、砂を踏み締めながら近づいて行く。
一歩。
二歩。
三歩。
……。
少女の目の前に来たとき、男は少女に手を伸ばした。
「行こう。君のおうちに帰ろう」
少女が男の手を取った。
ざらり
さらさらととけていく男を少女はやはり恍惚とした表情で見ていた。
残されたのは、男の抜け殻。