short story

□砂
4ページ/5ページ

 
「また誰か来たのか」
「うん。あたしを連れ出そうとしたの」

 夜になり、いつもの男がいつもの格好で倉庫にやって来た。

「食え。飯だ」

 男は太った男を少女の足元へ蹴り出した。

「人のご飯を足蹴にするとは何事?信じられないわね」

 少女は怒ったように言う。
しかし声は楽しそうだった。
 男はいつものパイプ椅子に腰掛け、腕組みをする。

「この人は、どういう人?」
「悪いことをしていた政治家だそうだ。
ライバルたちが協力しあってこんな姿にしてみたがどうにも処理がつかない。
仕方がないから大枚はたいてお前の飯になったんだ」
「死んでないわよね」
「こわいのか?」
「違うわ。食べられないからよ」

 少女は裸足の足先で太った男の頭を踏んだ。
さらさらと砂が飛んで行くが少女は顔をしかめる。

「まっずい。こういう人のご飯、まずいわ」
「でもこういうのが一番多いんだろ」
「そうなのよ」

 少女は男の言葉に大きくうなずく。

「まあ《処理》してほしい《生き物》はあたしが《食べる》から。
こういうのの方が《処理》したくなるのが多いってのも分かる。
そのおかげであなたももうかってるんでしょう?」
「俺はただの給仕係だからな。
大した物はもらってない」

 少女は触れた全ての《命あるもの》を砂にすることができる。
 その砂は、例えばウサギが自分の排泄物を食べるようにまだ命が残っている。
だから少女はそれで食事をすることもできるのだ。
 少女は十年ほど、この倉庫に閉じ込められている。
姿はそのころから何一つ変わっていなかった。
 その前にも、アパートの一室に五年間。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ