short story

□死神列車
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 音が、消えた。
 学生の声も気に入りの曲も、
まるで自分が耳の聞こえない人間になったか真空空間に放り出されたように甲高い耳鳴りを残すだけ。
すべての音が、消えた。
 ボックスシートに一人の少女が座っていた。
それが私服だったとしてもなんらおかしな事はない。
なぜならこの辺りには私服校が二つほどあるし、背が小さくて幼い大人など掃いて捨てるほど居る。
 たとえ彼女の髪が妙に生白く、肌などは紙か雪を思わせる白さだとして彼女が微かな存在感しか出していなかったとしても。
下着のようなワンピースがウェディングドレスの白だったとしても。
 何らおかしな事は、ない。
 彼女は水を滑るような足取りで席を立ちこちらに歩いてくる。
その空いた席に男子学生が気付き、腰掛けようとした。

 ダメダ。

 言葉は決して喉より上に出る事はなく、
少女が目の前に来た時声にならない掠れた風の音が歯の間からひゅうと漏れた。
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