short story

□名残雪
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彼女は違和感を着込む人々の中で酷く浮いている。
それは彼女が独りだけ、
違和感を着ていない人だったから。
真っ黒な髪。
真っ黒なマフラー。
真っ黒なコート。
真っ黒な手袋。
真っ黒な鞄。
真っ黒な靴下。
真っ黒な靴。
春は確かにそこに来ていたのに、彼女はかたくなに黒のコートを脱ごうとしなかった。
まるで彼女だけ冬のまま。
春に取り残された様だと思った。
紛い物の桜がそこここを飾る、そんな季節。
彼女は青空が覗く中降る雪を見上げ、時々静かに立ち止まった。
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