short story

□醜い娘
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「どんなに可愛らしい生き物が身を清めているのかと思えば、こんなに愛らしいお嬢さんだったとは」

 そこにいたのは長い赤髪の男で、娘が今まで見た事もない服装をしていました。
そしてまた、娘が見た事もない程美しい男でした。
娘は一瞬ぼうとその男に見惚れてしまいました。
けれどすぐに自らの身の事を思いだし、男に背を向けました。

「早く行ってください」

娘は言いました。

「私の様な醜いものを見ては、貴方の目が腐れてしまいます」

しかし男はゆっくりと首を振り、娘に近づきました。

「いや、お前の様な美しいものを見て、どうして私の目が腐れよう。
どうかこちらを向いてくれ、美しい方」

 男の指が、娘に触れました。
娘はびくりと肩を震わせましたが、
抵抗することなく、ゆっくりと男の方を向きました。

「……なんと美しい」
 
 男はぽつりとつぶやくと、自分の着ていた外套を娘の身体に優しくかけました。

「貴女の清めを邪魔して申し訳ない。
これは私のお詫びのしるしだ」

娘は悲しくなって視線を下に落としました。

「どうかしたのか」
「貴方はこれからあの街へゆくのでしょう。ええ、どうぞおゆきなさい。
貴方は街の人々から喜んで迎え入れられます。
宿など探さなくとも町中の人々から家に招かれるでしょう。
存分に美しいものを与えられ、そうして嫁まで与えられるでしょう。
どうぞおゆきなさい。貴方はそこで祝福されます」
「どうしてお前はそんなに悲しい顔をするのだ」

男は問いますが、娘は静かに首を振りました。

「どうか、行ってください。
私が羞恥の炎で再び身を焼かれぬうちに」

 男は娘の長い睫毛の間から、水晶の様に美しい水の珠が流れ落ちるのを見ました。
そうして、一つ溜息をついてから男は娘の言う通りに街へ向かいました。
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