short story

□ある屋敷にて―人形師と姉妹―
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 姉は、なるべく優しい顔で言いました。
妹は姉の隣に腰掛けるとにっこりと笑って言いました。

「アレンが、私の服を脱がせてくれたのよ。
もちろん着せてもくれたのだけれど、
アレンは女の人の服がよく分からなかったみたいなの。
ねえお姉さま、直してくれないかしら」

 姉が妹のドレスを直している姿は、
壁に掛けられた大きな鏡に映っていました。
マリアはそれにふと目をとめて、思いつきを口にしました。

「ねえラミア。
私アレンと約束をしたの」
「約束?」

 ああ、人形の様に愛らしいラミア。
瞼を閉ざして首を傾げるその様はマリアですら惚れ惚れとするほど
愛らしくありました。

「ええ、約束よ。
これはお父様には秘密なのだけれど、
アレンは私たちのどちらかが好きなのよ」

 ラミアはびっくりして顔を上げました。
自分のドレスのひだを直して、それでと続きを促しました。

「それで、
アレンは自分の好きな方に
瞳をあげると約束したの。
生涯の愛をその瞳に誓うと言ったの」

 ラミアは小さく声を上げました。
ラミアは、もし自分が瞳をもらえれば、自分のかわりに世界を映す美しい宝石になるだろうと思いました。
瞳を持たないラミアには、何とも素敵な約束でした。
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