short story

□ある屋敷にて―人形師と姉妹―
6ページ/11ページ

 姉はにっこりと満足そうに笑いました。
 ああ、なんと愛らしいラミア!
マリアの他愛ない嘘に騙されて。
 アレンはラミアの瞳の色を知りません。
ラミア自身はおろかマリアも、ラミアの瞳の色は知らないのです。
ラミアの瞳は生まれついたその瞬間に開き、次の日からはもうその宝石の輝きは見る事が叶わなかったのです。
父親と、母親と乳母はラミアの目の美しさを知っていましたが、その他は誰もラミアの目を知らないのです。
 嘘の約束で、マリアの目に瞳が与えられたと知った時、ラミアは嘆き悲しむでしょう。
しかしマリアにはラミアが邪魔でした。
ラミアはきっとアレンの事が好きに違いありません。
それでもアレンの気持ちがマリアにあると知ればきっとラミアは諦めるだろうと思っていました。
 次の日妹はアレンの作業場に呼ばれました。
作業場からは、昨日とは異なって木の匂いがしました。

「何度も呼んで、申し訳ない。
今日君を呼んだのは他でもないんだ。
瞳を見せてくれないか」

 妹は驚きました。
うつむいたままの顔をアレンは優しく包むと、顔をそっと自分に近づけました。
閉じていた瞼を、力を入れて持ち上げます。

「ああ、綺麗な瞳だね。
まるで宝石の様だ」

 アレンは笑いました。
妹は急いで目を閉じると走って作業場から出て行きました。
途中、何かに足をぶつけてよろめきましたが転ぶ事はなく、自分の部屋に飛び込んで、鍵をかけました。
 ひどく顔があつくて、胸が苦しくなりました。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ