middle story

□魔女と男の子2
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 けれどそんな心配は不必要でした。

「人間、昨日から何も食べていないな。
それで母親捜しがつとまると思うのか」
「大丈夫だよ。普段からそんなに食べてないし」
「そういう問題じゃないだろう」

 男の子はそうかなと首を傾げました。
けれどいつもあまり物を食べていないことは事実でした。
空腹ですが、これくらいの空腹はどうということはありません。

「まあ事実がどうであれ、途中で倒れられて困るのは私だ。食え」

 魔女は果物の皮をむき、無理やり男の子の口に果物を押し込みました。
あまりに突然の事で口を閉じる事は出来ませんでしたが、代わりに目をぎゅっと瞑りました。
 口の中に入った果物は、見た目とは裏腹に甘くていい香りがしました。
そして実際、とてもとても甘くて柔らかくて、本当にほっぺたが落ちそうなほどおいしかったのです。
 男の子は夢中になってそれを食べました。
今まで食べたどんなものよりもおいしいと思いました。
いくつもいくつもおかわりをしておなかいっぱいになったころ、ようやく魔女は立ち上がりました。

「もう腹一杯になっただろう。行くぞ」
「……魔女は、食べなくていいの?」
「私は魔女だから食べなくても大丈夫なんだ」

 どうだ、うまかっただろう。
それでも魔女は笑って男の子に言いました。

「魔女はきっと変わった魔女なんだね。
僕と同じくらいだし」

 昨日と同じように手をつないで歩きながら、男の子は言いました。

「魔女にも色々な奴がいるのさ。
決まっていることと言えば全員女だな」
「男の魔女はいないんだ?」
「当たり前だろう。
魔女というのは『魔の女』と書くんだ。
男なら魔法使いになる」
「僕は魔法使いになれるかな」
「さあな。
しかしなりたいと心から思えばなれるだろう。
素質は充分にあるから」

 少し前を歩く魔女をみて、男の子はなれればいいなと思いました。
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