middle story
□ヘブンリー・ブルー
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ここで雪美と言う人物の描写を試みてみる。
壊れたビデオを再生した時のように砂嵐がかかっている、
とでも言えば分かり易いか、僕の雪美に対する記憶は急速に劣化しつつあった。
そのために正確な描写は出来るとは思わない。
この記憶が風化しきらないうちにこれを綴ろうと思ったのだ。
それだけの妥協は必要な物だった。
雪美はその名前の通り冬至の日に生まれたそうだ。
そして雪のように真っ白な肌をしている。
色素が薄いので、肩胛骨付近で揺れる髪は脱色もしていないのに赤みがかっていた。
目は大きく、アーモンド型。
長い睫毛がその潤んだ黒目がちの目を取り囲んでいたのは、やけにはっきりと記憶している。
鼻はそんなに高くない。
少しだけ上を向いていて、それが雪美の顔に子供のような愛らしさを添えていた。
唇は鼻が接吻したかのように鮮やかなピンクだった。
頬も花を散らしたかのようにうっすらとピンク色で、
けれど血の巡りの悪い彼女はいつでも蒼白な顔色だった。
細く長い首がそのふっくらとした顔を支えていて、肩はびっくりする程華奢だった。
顔が丸い為にふくよかな体つきをしているのかと思うが、雪美の身体は枯れ枝のように細い。
簡単に折れてしまいそうな程、儚い。
そのせいか、彼女には存在感という物が欠けていた。
とは言っても一般的な存在感ではなく、ここに確かに存在しているという確信が希薄な女の子だった。
ともすればすぐにどこかへ飛んでいってしまうのではないか。
足音は存在しているのに振り向いたら忽然と姿を消しているのではないか。
そんな不安に駆られる女の子だった。
あえて物に喩えてみようと思う。
そう、彼女は風船だった。
手を離せばいとも簡単に天空へ上っていく、強く抱けば弾けて消えてしまう、そんな女の子だ。
似ているからだろうか、雪美は風船が好きだった。