middle story

□ヘブンリー・ブルー
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「……そこに祐一、いる?」

 僕は問いかけに問いかけで返した。
すると雪美も気分を害した風もなく、いるわと短く答える。

「かわってもらえるかな」
「ええ」

 答えの後、すぐに受話器の向こう側でとまどった応酬が聞こえてきた。
そしてしばらくすると、祐一の低い声が電話口に現れる。

「分かったか」
「さすがに分かるさ。
それで、どこの夏祭りだ」
「N川の近くでやってる、花火大会」
「すぐ行く」

 電話をきると僕はN川に向かった。
する事もなかったのでちょうどいい暇つぶしになると考えたのだ。
十分ほどでN川に到着すると、祐一と美佳は僕がどこに現れるか知っていたかのように待ち構えていた。
 美佳は珍しく浴衣で着飾っていた。
水色の生地に、金魚が泳いでいる夏らしく涼しい模様だった。
祐一はTシャツにジーンズで、片手にヨーヨーを持っていた。
夜店での戦利品だろう。
雪美は、いつかのような白いワンピースだった。
今日はノースリーブで、足下は白いミュール。
前よりも一層儚げな印象が目立つ。
 以前のように祐一と美佳、僕と雪美と分かれて夜店を見て回る。
射的や輪投げ、焼きそばに綿菓子。
ありとあらゆる店の中で、僕と雪美が目を惹かれたのはただ一つだった。
 雪美が立ち止まる。
何かあるのかと僕は立ち止まり、そちらを見た。
そこにあったのは古くさびれた風船の夜店で、店の年忌とは裏腹に色とりどりの風船が浮かんでいる。

「欲しいの?」

 僕は聞いた。
雪美は答える事もなくぼんやりと裸電球に照らされて美しく光る風船を眺めていた。
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