middle story
□ヘブンリー・ブルー2
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その日僕と雪美は午から深夜にかけてずっと側にいた。
午には恒例の赤い風船をあげたがその日はあいにく雨だった。
雪美は喜んでいたがいつもより生気がなかった。
「どうしたんだい」
僕が聞くと辛そうに身体をふらつかせながら、目を伏せる。
「気分が悪いの。
ものを食べてもすぐに吐いてしまうし、一体どうしたのかしら」
歩き出して、彼女は何かに躓いた。
僕は雪美の身体を支えたがするりと手からすり抜けていく。
雪美の手から、赤い風船が。
飛ばしてはいけないと思った。
きっとこのまま飛ばしてしまえば雪美はそのまま天上へ連れて行かれてしまうと思ったのだ。
ジャンプをして紐を掴もうとするが、するりと手からすり抜けていく。
僕の手から、赤い風船が。
雪美は雲のたれ込める空に飲み込まれていく風船を、じっと何かにとりつかれているかのように見つめていた。
その姿を見て、僕は決心する。
彼女を永遠にこの場所に繋ぎ止める為に。
以前から僕には恐怖があった。
彼女が風船と一緒に空に上っていくのではないかと言う恐怖が。
肌を合わせても、言葉を交わしても、幾ら手を握っても雪美はここにいるという確信がなかった。
それでも僕は手放したくなかったのだ、どうしても。
赤い風船と、雪美を。