middle story

□ヘブンリー・ブルー2
5ページ/7ページ

 背負った雪美は重たかった。
仕方がない、人間なのだから。
中身の詰まった、強く抱きしめても弾ける事のない人間なのだから。
もう空には、飛んでいかない。
そう自分自身に言い聞かせながら近所の廃工場に着くと、僕はようやく雪美を降ろした。
降っていた雨はとうに上がっていて、細い月が辺りを照らしていた。
月明かりに雪美の顔が浮かぶ。
もう死んでいるようだった。
その顔は眠っているようにしか見えない。
 僕はナイフをとりだした。
前から、ずっと考えていたのだ。
もしも空が彼女を連れて行こうとしたなら、僕がこの場所に彼女を繋ぎ止めようと。
 彼女の服を脱がせた。
丁寧に、優しく。
全て剥ぎ終わると鳩尾の部分にナイフの切っ先をあてた。
弾けるような感触。
続いて湧き出る、血液。
力を入れてナイフを手前に引く。
彼女の腹の中が露わになった。
風船の、赤だ。
 ふと彼女の腕に目をやると、彼女の生きようとした証が目に入った。
自傷の、跡。
器用ではない彼女が自らを傷つけて生きようとしていたのだ。
風船と、同じ色を見て。
僕は唐突に哀しくなった。
生きようとしていた彼女を、僕は殺してしまったのだ。
地にいようとあがいていた彼女を、ぼくが殺してしまったのだ。
ぼくが、てをはなしてしまったのだ。
 呆然と腹の中を見ていた。
これが雪美だ。
雪美だった物だ。
 しかし、異物を発見する。
雪美の腹の中には、雪美ではない物が入っていた。
 嬰児だ。
まだ小さい。
丸まった姿とか細く繋がるへその緒。
まるで割れてしまった風船のようだった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ