middle story
□仮面舞踏会1
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カラスはちょっと笑ってまたコーヒーを飲みました。
そしてソーサーの上にカップを置くとダリアの足にまとわりつき仔猫をさします。
「その仔に名前はあるのかなと思ったんだ」
フライパンに刻んだベーコンと人参を入れながらダリアは頷きました。
「ええ、白い首輪がついていたの。『E.E』と書かれていたわ」
「E.E……」
その話の間もダリアは休まずに塩と胡椒を投げやりに振りかけ、といた卵を注ぎ入れます。
カウンターに置かれたトースターが音を立ててパンを吐き出しました。
「でもそれは名前じゃないだろう?」
「ええ。飼い主のイニシアルかと思ったんだけど……」
「猫の首輪に?」
「おかしいでしょう?だから勝手に呼ぶことにしたの」
ダリアはフライパンを器用に操って卵をオムレツにすると焼けたパンの上に乗せました。
平皿の上にパンをのせ、スープ皿にコンソメのスープを注ぐと手早くカラスの前に出します。
「Eli Etoile」
エリ エトワール。
エトワールは星、或いは花形を意味する言葉です。
カラスはスープを飲み込みながら首を傾げました。
「猫の名前にしては仰々しいんじゃないかな」
「じゃあ貴方はEtwas(何某)にでもしろって言うのかしら」
「Etwasだなんて……ごめん、そういうつもりじゃなかったんだ」
すっかりお手上げというようにカラスはパンをかじりました。
特に何もしているようには思えないのに、ダリアのトーストはびっくりする程美味しいのです。