ダルいズム。

□青い春
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 予想外の所で着信音が流れてきた。
 公園の、植え込みを挟んだベンチ。
そこから彼女が一生懸命に捜してきたという
春太の好きな昔の曲が流れてきた。
 この曲を着信音にしている人間は、
今のところ彼女しか見た事がなかった。
 意外に近くにいたのだと少し笑って、
春太は植え込みから覗き込んだ。

「誰?」

 男の声。
反射的に身をひいた。

「ううん、間違いみたい」

 聞こえた女性の声は、
間違いなく彼女の声で春太は混乱した。
 音楽が途切れ不通を告げる
残酷な音が携帯電話から漏れる。
切られた様だった。
 大きく深呼吸をすると、
息を潜めて植え込みの向こう側を覗き込む。
見てはいけない様な気がした。
けれど同時に見なければいけない様な気がした。
 緑に遮られながら見えた風景は、
まるで安っぽい恋愛ドラマのワンシーンの様で。
若い男女が口付けあう様は
ほほえましいとさえ思えた。
ただ、それが自分の恋人でなければ。
 頭を強く殴られた気がした。
耳鳴りがする。
 裏切られた。そんな気がした。
いや、これが初めてではない。
実は心のどこかで気付いていた。
だが認めるのが嫌で、
決定的な瞬間は見ていないからと
言い訳をしてずっと自分を騙していた。
勘違いであって欲しい。
それは春太自身の希望だった。
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