ダルいズム。
□青い春
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「えりあ」
言葉に出す気持はなかったのに、気がつけば喉から声が漏れていた。
大きな声ではなかったと思うのだが、恵利亜とその浮気相手が驚いた顔をしてこちらを見る。
もしかしたら、俺が浮気相手なのかもしれなかったけれど。
「‥‥春」
大きな目をより大きくしてえりあはこちらを見ていた。
今自分はどんな顔をしているのだろうか。
ものすごく怒った顔をしているのかもしれない。
ものすごく悲しい顔をしているのかもしれない。
鏡のない場所では、自分がどんな表情をしているのかも分からなかった。
「誰?」
男が問う。
春太の学校の人間だった。
サッカー部で、女癖の悪いと評判の男。
その男も春太に見覚えがあったのか、もう一度驚いた顔をする。
ドラマなら、こんなシーンではどうするのだろう。
春の頭はきちんと働いていない様で、これから先どうしたらいいか分からなかった。
それなのに勝手に口は動いていて、それにあわせて身体も動いていた。
「邪魔したかな」
春太は話しながら驚いていた。
自分身体が自分のものではない様な気がした。
「また後で電話するから。
今度はちゃんと出てな」
足はくるりときびすを返していて
どんどん二人から遠ざかっていく。
驚く程普通の足取りだった。
苛つきにまかせた強い歩行でも絶望にくれた弱々しい足並みでもなく、むしろ楽しいことでもあったかのように進んでいく。