ダルいズム。

□青い春
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 違う、言いたい事は沢山あったはずなのに。
 気付いていた。
何度も街で、見るたびに違う男を連れていたから。
だけど違うかもしれない、そうであって欲しいと気付かないふりをしていた。
自分は、恥ずかしくて自分から手もつなげない様な男だから仕方がないとも思っていた。
 自分の目で見るまでは。
そう、決定的な瞬間を見るまでは信じていたいと思っていたから。
 家に帰って顔を洗った。
その時ふと鏡を見ると自分の顔は酷く安心した様な笑顔で驚いた。
恋人の浮気が分かって安心する男がどこにいるんだ。
そう思って顔を叩いた。
 その夜、えりあから電話があった。

「公園で会えないかな」

 夜も十時も回っていて、どうやら本人は既にその公園にいるようで、
小走りに公園へ向かった。
忘れた訳ではなかったが、心配なのは間違いなかった。

「えりあ」

 初夏とは言えない様な、肌寒い夜。
薄着のえりあは酷く震えているかの様に思えた。
春太は自分のジャケットを脱いでその細い肩にかけてやる。
いつも、そうしている様に。

「……怒らないの?」

 えりあは聞く。

「なんで、怒らないの」
「なんでって……」

 自分も浮気をしている、
そんな訳ではない。
驚きの為に怒る余裕もない、
そんな訳でもない。
では何故怒らないのか。
むしろ、怒れないのか。
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