ダルいズム。
□生き人形に口付けを。
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小鳥は手を伸ばすのをやめると屋上のコンクリートに寝転んだ。
有重はじっとその姿を見つめる。
「そらがきれい」
彼女ははっきりと音を発音する。
そのためか、舌っ足らずな印象が強い。
小鳥は少しだけ袖をあげて、並んだ痕の一番先頭だけを眺めた。
「痛くはなかったの」
有重は何も答えない。
「でもきれいだったわ。
うっすらと血がにじんで、まるでルビーのようだった」
うっとりとその痕を見つめる彼女。
その姿はなんだか御伽話の白雪姫のようで、
口付けをすれば生き返るのではないだろうかという錯覚を有重に覚えさせた。
そうだ、彼女は死んでいる。
生物学的に言えば死んではいない。
自力で呼吸を行い、心臓を動かして全身に血液を送り、
彼女自身の脳髄で物事を考えている。
違う、死んでいるのは。
彼女の心自身だ。
彼女は常に死を想い、憧れ続けている。
死を窮乏し続けているのだ。
「ここから頭から墜ちれば、死ぬだろうか」
有重は問う。
小鳥は笑った。
美しい笑顔だった。
「しねるわよ。
この世のすべてから解放されて、一番うつくしい状態でしねるわ」
うつくしい状態。
彼女の言う美しいが一般のと異なっているのは簡単に理解できた。