ダルいズム。
□生き人形に口付けを。
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彼女の言う、うつくしい状態。
それは魂が解放された状態を言うのだろう。
まるで赤子のように、汚れなく真っ白な魂で死ねると言いたいのだろう。
けれど彼女の翼はどうしようもなく黒かった。
天使のような翼は、たった一対でさえ持ちあわせていなかったのだ。
「ねぇ有重。私はおもうのよ。
たかい場所から翔び出せば、私はすべてから解放される」
「短い解放だね」
全てからから解放されるかわりに、自由になった瞬間この世界から消えてしまう。
「いいのよ、コンマゼロにみたない解放でもいいわ。
私はこの世界のありとあらゆるかなしみといきどおりから解放されたいのよ」
それではあまりにも悲しすぎやしないか。
有重は思ったが口にはしなかった。
「私、鳥になりたかったの。くろい翼をもった鳥に。
こんな脆弱なあしと蝶々だかのようにもろい羽根しかもちあわせていない人間なんていやだったのよ」
脆弱な脚。蝶々だかのように脆い羽根。
彼女から生み出される言葉はいつだって独特だ。
有重から言わせれば、鳥の方がずっと足は脆弱だし、そもそも人間に羽根などあるものか。
けれど有重は何も言わない。
ただ目を伏せて彼女の、名前の通りに吟うような声を聞くのだ。