ダルいズム。
□玻璃色恋心
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咲夜は帰宅を急いでいた。
夏とはいえ、十一時を過ぎるとさすがに辺りは真っ暗だった。
塾に行っていて遅くなってしまったのだ。
いつもなら十夜と言う住み込みの見習いが迎えに来てくれるのだが、
今日に限って彼は実家に帰っているのだった。
その十夜からもらったキーホルダーが揺れる。
正直安物だが、硝子で出来たそのキーホルダーは
きらきらと光を反射してとても綺麗だった。
一種のお守りのような気持で咲夜はキーホルダーを付けていたのだ。
しかしいくらお守りを付けているとは言え、所詮お守りに過ぎない。
早く帰りたくて咲夜は近道となる辻を曲がった。
その途端ふと、最近この辺りで不審者が出たという話を思い出す。
まさか、大丈夫だろう。
咲夜は自分の思考をわらって、しかし歩みを早めた。
それが災いしたのだろうか。
「痛!」
街灯もあまりない暗い道。
咲夜は何かにつまずいて転んでしまった。
人気のない道で良かったと咲夜はほっと胸をなで下ろす。
転ぶなど何年ぶりの事だろうか。
しかし、はたと気がつく。
「あれ?」
キーホルダーが、ない。
さっきまでは確かにあったのに。
慌てて近くの茂みを捜す。
転んだ拍子に落ちたに違いない。
がさがさと茂みを探っていると、奧にきらりとひかる物があった。
間違いない、あのキーホルダーだ。