ダルいズム。

□玻璃色恋心
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 ほっとしてその光に手を伸ばし、ひんやりとした感触を掴んだ。
間違いなくそれは十夜からもらったキーホルダーで、
座り込んだまま胸にかき抱くと安堵の為に溜息をついた。

「捜し物ですか」

 突然の声にびくりと肩を震わせる。
男の声だった。
咲夜はゆっくりと振り向く。
暗くて顔はよく見えない。

「はい。でも大丈夫です」

 キーホルダーを握りしめて答える。
大丈夫、まさかそんな事もあるまい。

「足は、大丈夫ですか」

 男に問われて気がついた。
転んだ時に膝を負傷したらしい。
制服のスカートから覗く膝はひどく血が滲んでいた。
しかし痛みはなかったし、恐かった咲夜はあえて笑って見せる。

「大丈夫です。そんなに深くはありません」
「でもこの辺りは物騒ですから、おくりましょうか」
「すぐ近くなので大丈夫です」
「一人だと不用心ですよ」

 この人、おかしい。
咲夜は思った。
夜なのに、サングラスをしている。
度の入ったサングラスなのかも知れないが、それだけではなく夏だというのに長袖を着ていた。
咲夜は叫びだしたい衝動を抑えて、大丈夫ですと早口にいい、立ち上がろうとした。
その時、男の右手が咲夜の右腕を掴んだ。

「は、放してください」

 立ち上がると余計に引っ張られるような気がして、咲夜は座り込んだ。
左手はぶるぶると震えていた。
力が入らない。
それでもぎゅっとキーホルダーは握りしめていた。
恐い、助けて。
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