ダルいズム。

□玻璃色恋心
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「僕は、怪しい者じゃないです」
「貴方がそのつもりでいらしたとしても私には不審者としか思えません。
ですから私には構わず行ってください。
大声を出しますよ」

 男の手が、ゆるんだと思えた。
ほっと力を抜いたその時急に力一杯引っ張られて口を塞がれる。

「静かにしろよ」

 耳の近くで男が言う。
咲夜は男の腕を振り払おうともがいたが、女の力ではどうしようもない。
足をばたつかせるが咲夜にはどうしようもなかった。
それでも、自由だった左手で男の右手をひっかいた。

「痛!」

 意識が傷にいった瞬間を狙って咲夜は腕を振り払って逃げた。
しかし、どうすればいいのだろう。
咲夜は走るのがめっぽう遅かったし、恐怖のあまり声も出なかった。
恐い、助けて、助けて。
足がもつれて、再び転んでしまった。
眼鏡が転がる。
キーホルダーが地面に落ちて跳ねた。
 すぐに男が追いついてきた。
ひっかいたのが悪かったのだろう、怒りの気配が強かった。
男の足下まで転がったキーホルダーを見つけると、
男は怒りにまかせてそのキーホルダーを力いっぱい踏みつける。
 涼しい音がして、ガラスが割れたのだと理解した。
お守りが壊れたのだ。

「静かにしろよ」

 男は同じ言葉をもう一度言うと、咲夜の腕をひっぱり上げる。
恐怖に力の入らない咲夜は男に抵抗も出来なかった。
 これから私は何をされるのだろうか。
絶望的に考える。
このまま舌をかみ切って死んでしまおうかとすら考えた。
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