ダルいズム。

□ジョアンの頭から
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 絵梨花は静かに本を開いた。
英語がびっしりとつまった本だった。
彼女は外国暮らしが長かったから日本語よりも英語で書かれた本の方が読みやすいらしい。
対して僕は、顔こそ外国人だが日本の暮らしの方が長い。
その辺りは春太と同じだ。
とは言え、春太もフランス語なら上手らしいのだけれど。

「盲いた者は幸いである」

 僕がもう一度呟くと、彼女は鬱陶しそうにこちらを見た。

「煩い」

 ハスキーな声が耳に心地良い。
僕がふふふと笑うと絵梨花は眉間にしわをよせる。
そのちょっとした動作にさえ愛しさを感じてしまうのだから、僕は正直おかしいのかもしれない。
けれど君に狂っていると言うのなら、それはそれで本望だ。

「おい」

 絵梨花は細い指を伸ばして僕の髪に触れた。
なんだか柑橘系の香りがして、僕はまた笑った。

「なぁに」
「この髪の毛は鬱陶しくないのか」
「鬱陶しいよ」
「そうか」

 細い指が一房、僕の髪をつまみ上げた。
遮られない視界で彼女の顔を見つめる。
遮られた視界でも、遮られない視界でも、相変わらず彼女は不機嫌そうだった。

「カチューシャは耳の後ろが痛くなるから嫌だな」
「私にそのカチューシャを無理や
り押しつけたのはお前だろう」

 ふふふ。僕が笑うと一層不機嫌そうに眉間のしわが深まった。
本当は不機嫌なんじゃなくて、考えている時の癖なんだけれど。
彼女がその癖のために誤解を受けることも少なくない。
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