ダルいズム。

□死にたがりの小鳥と
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 零斗は傷口をおさえて、切れ長の瞳で小鳥の眼を覗き込んだ。
少し、赤い。
何かがあったのだろうか。

「痛いのしか……ダメなのか?」

 小鳥は静かに首を振った。
零斗は少しほっとしたような表情をする。
 元々彼は感情が豊かではない。
いつも眉根に皺をよせ、不機嫌そうにしていた。
小鳥は自分がこんなに他人の表情を読み取れるようになっている事に驚いた。
表情には出さなかったが。

「もう、いたくないもの」

 小鳥は口にする。
 幾度も繰り返した自傷で、すでに痛覚は麻痺していた。
残るのは、傷口にそって痺れるような感覚だけだ。

「じゃあ、何でんな事するんだよ」
「血をみたかったの」

 再度小鳥が言うと零斗は顔をしかめて手に力を込めた。
無意識の行動だったのだろう。
しかし急に傷口が開いた小鳥は衝撃に跳ね上がった。
それで零斗も自分が力を入れていた事に気付き慌てて手を引っ込めた。
 教室には二人だけしかいない。
その二人も動かない。
静寂に満ちる教室の空気は淀み、重量をましている。
窓から柔らかに差す太陽に埃がきらきら光っていた。

「……なあ」

 零斗は空気を震わせた。
小鳥はどこでもない場所を見ていた。

「何で死にたいんだ?」

 小鳥は答えない。
ただぼんやりと零斗の声を聞いていた。
言葉ではない。
声を、聞いていた。

「……そんなに死にたいなら」

 急に熱い手が小鳥の首にかかる。
初めて触れる、零斗の肌。
じっとりと汗ばんで熱い。
小鳥は悲鳴をあげた。

「そんなに死にたいなら、オレが殺してやるよ」

  
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