ダルいズム。

□The opacity truth
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 俺が腕の長さを合わせていると、宏はふと顔をあげた。
いやに真剣な表情だ。
目深にかぶったキャップから鋭い眼光が見て取れる。

「どうした?」
「‥‥萌が」

 そう呟き、口をつぐんだ。
 今日は珍しく部活が休みだと聞いたので来る父の日に向けてプレゼントを選ぶ手伝いをしてもらっている。
正直まだまだ先の話だけど、宏の予約は先に取っておかないと不明になる事が多い。
宏なら父さんと背格好や色が似ている。
一昨年前くらいから父さんへのプレゼントは宏を見て決める事にした。

「やっぱり時計とかの方がいいかなあ」

 ジャケットを棚を戻して考える。
よく考えれば父の日はもうジャケットを着る季節ではない。
しかし俺が用意できる程度の時計なんてあげたところでつけられないだろう。
ネクタイも然り。
だからと言ってネクタイピンも駄目だ。
そもそも父さんはネクタイをつける職業でもない。
 ボールペンは去年あげた。
革の手帳は母さんがあげたものを愛用している。
筆箱は中学生の頃にあげた革の物がある。
もうプレゼントのネタもつきてしまった。

「早くしろ」

 宏がいらいらしたような声でうなる。
そうは言われても決まらないものは仕方がない。
言葉の代わりに困った顔を返すとすごい目で睨みつけられた。

「だ、だって仕方ないだろ?決まらないんだから」
「さっさと決めろ、オレも暇じゃねぇんだ」
「まだ半時間も経ってないだろ!」

 それでなくとも父さんの趣味は、何というかあまり分からない。
そろそろ五十歳にも近付いているというのにまだチャラチャラとした服装をしている。
 
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