ダルいズム。
□The opacity truth
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物音に顔を上げると、影に隠れるようにして宏がいた。
隠れるつもりはないのだろう。
けれど身に付ける物が全て黒く、そして肌も浅黒い宏はどうしても影と溶け込んでいた。
その様子もあるが、まさかこんなに早く帰ってくると思っていなかった私は驚きのあまり目をぱちくりさせる。
宏は相変わらずの無表情でずかずかと私に歩み寄り、ソファーの隣にどすんと腰かけた。
そして手を私の腰にまわすとぐいと距離をつめる。
「‥‥おかえり」
「ただいま」
一言だけ答えると私の頭に顔をうずめ、それきり押し黙ってしまった。
私は静かに繕い物を続ける。
その黒いズボンは宏の物で、学校に着ていく応援団の服だった。
宏は何故かいつも学生服を着ていく。
私の頭に宏の額がある。
その額には傷がある。
見ずとも分かる、その痛々しい傷跡。
「‥‥宏」
「ん」
「早かったのね」
囁くようにこぼすと、宏は身体を起こした。
訝しみ見上げるといつものように無表情の宏と目が合う。
「萌が」
「え?」
その腕の中に抱きかかえられると、少しだけ私より低い体温に包まれた。
息を吐き、目を閉じる。
目の前は黒い。
「萌が呼んでる気がした」
この子は普段ひどく大人びているのに、時折とても子供だ。
行動も声も見た目も、まるで大人のそれなのに、言葉だけはまだ少年で。
まだ彼は高校生なのだから間違いではないけれど滑稽に思える。