ダルいズム。
□学園の皇帝陛下
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目の端のしわが柔らかい。
あれからどれだけの時間が流れたのだろう。
俺と、彼女がいない間に。
心臓が痛む。
「今日は文化祭を?」
「ええ、息子と娘が何かをやるそうです」
「へえ」
ずきり、と痛む。
動く時間の痛み。
油もさされていない歯車が軋みながらまわる。
「どちらまで」
「講堂に三時から。それまで、料理部のお店に行きたいのですけれど……」
きょろりと辺りを見回して、困ったように笑う。
この学校は広いから、迷いこんだに違いない。
神様は残酷だった。
やはり何故俺はあの時死ななかったのか。
世界で一番幸福に死ねたなら。
「料理部は、確か二棟の二階でしたよ」
「ここはどこですか?」
「一棟隅の、中庭です。ここを抜ければ早いと思いますがね」
彼女が忘れているなら、何故ここに連れてきた。
俺を忘れているなら、俺はこんなにも強く覚えているのに。
声も、微笑みも、髪の如何に柔らかか、肌の如何に滑らかか。
何一つ忘れた事はない。
あの美しい夢を、忘れられるはずがない。
「理科の先生が育てていらっしゃるなら、いつか青い薔薇が咲くでしょうか」
通りざま、彼女はぽつりと呟いた。
驚いて顔をあげると、くすりと微笑む彼女と目が合う。