ダルいズム。

□学園の皇帝陛下
4ページ/4ページ

 心臓が痛い。
早く止まればいい。
今死んでも、俺は世界で一番幸福に死ねる。
 この微笑みと再び会えた。
この優しい眼差しを一身に受けることができた。
忘れているならそれでも良い。
俺の事を忘れて、笑えるのならそれで良い。
今の夫が、彼女を大切にしてくれているなら、それで。

「もし咲いたら、一輪もらって届けに行きますよ」

 俺も笑った。
彼女もよりいっそう嬉しそうに微笑む。
青い薔薇より美しい。

「約束ですよ」
「絶対守りますって」

 幸せなら、それで。
俺の心臓はもう壊れそうな程に痛みをあげていた。
今死んでしまえ。
美しい彼女を見ているうちに。
 背中が遠くなる。
ああ、これで希望を持ってしまったら、俺はきっと駄目になる。
この街で二度、三度出会う事を望んでしまう。
忘れている彼女の事を。
 だから早く、死んでしまえ。
 彼女はこちらを振り向いた。
心臓はもう破裂しそうに痛い。

「最後になりましたけれど」

 彼女は微笑んだ。
小鳥のように首を傾げて。
二十年前と変わらぬ風で。

「お久しぶりですね」

 ああ、何故俺は死ななかった。
彼女が俺の事を、忘れていると思ったままに。
 この希望は、俺に重すぎる。
 昔は昔だった。
今は今、なのに。
 それが繋がり、眩しい光を放つ。
それは俺にとって、希望という絶望だ。
 
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ