ダルいズム。

□手と声と
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白くて細い首。
唇で吸い付けば、赤い花が散るだろう。
牙をたてれば、赤い血が流れるだろう。
手で握れば、簡単に折れてしまうだろう。
俺の視線は首から離れない。

「圭、痛い」

 喉が動く。
苦痛に動く。
不安そうなその声は、間違いなく君のそれ。
今まで聞いた事のない響き。
 聞きたい。
今まで聞いた事のない響きの声を。
聴かせてほしい。
喜びも、怒りも、悲しみも、快楽も、不安も、恐怖も、感情を失った響きさえも。
君の響きの全てが欲しい。

「けい……っ」

 いつも凛として、何ものも近付けない神聖な眼が恐怖に震えていた。
首は存外冷たいものだと初めて知った。
汗で湿った皮膚はまるでそれを待ち望んでいたかのように俺の手のひらに吸いつく。
まるで初めから、そこにあったかのように。
血の流れる震えがくる。
どくどくと規則正しく脈動する。

「はなしなさい……!」

 もっと微細に震える。
そうな、これが恐怖の響き。

「ちょうだい」

 顔が近付く。
君しか見えない。
君しか見ない。
これから先、君だけを愛すると誓う。
誓いを違えたら、この命を捧げてもいい。
だから。

「ちょうだい」

 君の全てを。
 
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