ダルいズム。

□手と声と
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「……」

 今までで一番近い距離に顔があった。
それなのに君の瞳は相変わらずまっすぐに俺を見つめる。
こちらが苦しくなるくらいまっすぐに俺を、射抜く。

「離しなさい」

 その瞳、その声、揺れる髪の一本さえも。
 俺はゆるゆると手を離した。
触れていた左手が妙に重たい。
きっとこれは、聖なるものに触れた代償。
決して堕ちない神聖に触れた穢れの身が、灼かれた。

「……行きましょう」

 それでも君は俺の右手を離さなかった。
きゅっと力を込めて握ってくれる。
俺も応えるように力を込め、そしてその身体を抱き寄せた。

「けっ圭!何をするのですか、離しなさい!」
「……ちょっとだけ……」

 この姿を愛おしいと思ったのはいつからだったろうか。
この声を愛おしいと思ったのはいつからだったろうか。

「もうちょい、このまま……」

 初めて話した時?
いや、もっと前。
初めて会った時?
いや、もっと前。
初めて見た時?
それよりも、もっと前。

「すきやで」
「……よしてください……」

 生まれる前から、多分。
この形ができる前から、ずっと。
 
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