short story

□魔法の指先
5ページ/6ページ

 繰り返される痛み。
その痛みは楔を揺らして傷口を大きくするばかり。
それでも私はやめられない。
腐った痛みに身を任せれば、きっとそのまま死んでしまうから。

「死ね、死んでしまえよ、お前みたいな要らない人間」

 ぶつぶつと呟きながらごんごんとコンクリートに頭をぶつける。
痛みに目の前がくらくらした。
だけどこのくらくらを乗り越えたなら私は心の痛みから解放されるんじゃないか、そう希望を持って、私はひときわ力をこめて頭をぶつける。
 不意に身体をつかまれた。
私の頭は空を切って折れ曲がった。
つかんだのは誰でもない、風呂から上がった彼だった。

「痛いだろうが」

 顔をしかめてそういうと、彼は私の身体をベッドまで引っ張り、無理矢理乗せた。
キャミソールから伸びた私の腕には包帯が巻いてある。
その腕をぐいと持ち上げると彼は自分を抱きしめさせるように腕をおろした。
それから口をこじ開けると乱暴に口付け私の半分だけ開いた瞳を覗き込む。

「……私は、いつだって死にたいんだから」
「知ってるよ」

 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ