ダルいズム。

□英語科準備室にて
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 教師になってそろそろ五年、ずっとこの調子で振り回されている。
元々今日も風祭の用事を手伝う為にこの部屋にきたのだ。
自分には全く関係のない、英語の補助教材を作るためである。

「いいじゃねえか、お前工作系得意だろ」

 背もたれに乗せていた右手を掴まれた。
その手のあまりの冷たさに、少し息を飲む。
薄く、細長い手。
人形のようだと思う。
 けれどその手は人形にしてはあまりにも痛々しかった。

「苦手なんだよな、細かい作業」

 色素の薄い目が、じっと佐々岩の手を見つめる。
右目は真っ白な眼帯に覆われて分からない。
ただ、その頬に残る火傷の痕が真実を伝えていた。
 風祭の右手にも、頬と同じように火傷の痕がある。
そしてその痕が顔と手だけではない事を、佐々岩は知っていた。
肩には大きな縫い痕もある。
細かい作業が苦手な、理由。
 時折チョークを落としてしまう程なのだ、ハサミだ何だを使うような作業ができる訳がない。
しかし、佐々岩が風祭を手伝う理由は同情からではなかった。
 ……細い指だ。
佐々岩はしげしげと風祭の手を見つめた。
相手も見ているのだ、こちらが見ても文句は言われまい。
見れば見るほど自分の手とは異なる。
間違っても女性の手とは思えないが、自分のような「男らしい手」ではない。
 掴まれたままの手を、ぎゅっと握りしめた。

「……?」

 視線が佐々岩の顔にうつる。

「……起きてください。ハサミが使えなくてものりで貼るくらいできるでしょう」

 しっかりと握り直し、起きあがらせようと引っ張る。
当たり前だが、成人男性は片腕で持ち上げられるような重量ではなかった。
びくともしない身体に諦めて手を離す。
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