ダルいズム。

□英語科準備室にて
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 こうなって動く人ではない。
諦めてパイプ椅子に座り直すと色画用紙とハサミを手にとった。
作業を始めようとするものの、いやに静かだ。
いぶかしく思い風祭を見ると、離された手を上にあげたままだった。

「……どうしたんです」
「いや?」

 ようやく起き上がって姿を見せる。
寝転んでいたために長い髪が乱れていた。
こちらを見つめる目にも眠気の為なのかいつも程の鋭さはない。

「コーヒー」
「諦めてください」

 間髪入れずに断ると面倒くさそうに背中を向ける。
そして頭をかくとのっそり立ち上がった。
軽く伸びをして、またこちらを向く。
 ……いつもの目だ。
鋭い、内側まで見透かされそうな目。

「……後で、理科準備室にきてくださったら、紅茶ならお出しできますよ」

 この目で見られると、逆らえないような気がする。
そして恐らく、それは自分だけではない。

「いいよ、春太に頼む」
「生徒をパシリに使うのはどうかと……」
「ついでだろ」

 風祭は間違っても「良い教師」ではないし「良い人」でも「良い男」でもない。
だが、この目と静かな声で何か言われてしまうと従ってしまう。
彼の周りに常に人がいるのは、その特有の何かの為なのだろう。
 目の前で生徒に使い走りのメールを打つ姿からは想像もできないが。

「あー、だりぃ……」

 ちょきちょきとハサミを動かしながら、窓の外を見る。
今日は晴れだ。
 何だかんだで、風祭のいるこの教室は居心地がいい。
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