ダルいズム。
□林檎の日
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「昼食、林檎一つでいいんですかィ?」
元々、風祭が食事に重きをおいていない事は知っている。
料理には並々ならぬ労力を注ぐが、食べる為ではなく単に凝り性なだけだ。
休日はコーヒーしか口にしない日もあると聞いた時は胃が痛くなった。
「腹膨れるしな、林檎」
食って良いぞと昼食にされるはずだった出来合いの弁当を押し付けられる。
「自分のありますから」
「デザートにしろよ」
「ご飯のデザートがご飯って何ですか!」
風祭の髪がさらりと流れた。
日に透けて赤く見える。
こちらに向けた目は、色が薄い。
風祭は何もかもが薄かった。
髪の色、目の色、肌の色、身体、唇。
そして人間としての存在感も。
影が薄い訳ではない。
生きている人間らしさがないのだ。
どこかふわふわと、捉えどころのない存在。
しかしその中で、見えている左目だけは何よりも強かった。
「焼き魚って気分じゃねぇんだよな……」
風祭時也という人間の記憶はこの目に集約される。
恐らく風祭の印象をたずねればほとんど人間が目、と答えるだろう。
眼帯ではない。
残された左目の鮮烈さが圧倒している。