ダルいズム。
□眼帯さんととある女生徒
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それだけ確認しても名前が出て来なかった。
今し方提出されたプリントに視線を落とす。
二年九組二番今宮あかね。
控え目な字で綴られた女生徒の情報はそれだけだ。
「まあ、教え方と発音は良いらしいが」
適当に話を流そうとあえて違う捉え方をした。
眼鏡の奥から充血した目がきらりと光る。
「わた、私っ!違うんです、そういう事じゃなくて……」
「じゃあどういう事だ?人間的に好かれる要素はないと思うけどな」
胸ポケットからペンを取り出し、プリントを見る。
正解、正解、正解……。
成績も良いらしい。
「私……」
最後の問題にマルを付け、視線を女生徒に戻した。
今にも泣きそうな目。
面倒だな、と心の中で呟く。
「私、風祭先生の事が、男の人として好きです。欲しいと思います」
西日が眩しい。
眼帯に隠れていても、右目が灼かれてしまう。
「……何が」
眩しさの為か、眉をしかめる。
唇の端はつりあげたつもりだが、恐らく右は下がったままだ。
風祭の身体は不均衡で、いつも歪な笑顔を見せる。
「俺の何が、欲しいんだよ」
自分は今、どんな顔をしているのだろうか。
元々あまり鏡を見ないので、時折どんな顔立ちだったかも分からなくなる。