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□孤独な死体の出産現場
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 そこはつい最近に閉鎖された病院だった。
 よく映画などに出てくる閉鎖病院は、
医療器具や窓ガラスがぐちゃぐちゃに散乱しているのがありがちな光景だが、
実際はそんなものではない。
機材の大半は回収されていて、
ちゃんと清潔にされた状態で時を止めている。
病院は恐ろしいところではない。
いのちが巡る、厳粛な場所だ。
小鳥はぼんやりとそう思う。
 夏の盛りは死の匂いを孕んでいる。
何もかもを腐敗させる狂乱の熱。
甘いにおいのする風が小鳥のセーラー服の裾を揺らめかす。
有重に右手首を掴まれ、
引きずられるようにして病院の奥まった裏手まで小鳥は連れてこられた。
そしてある扉まで来るとようやく有重は小鳥の手を離し、
病院の内部へ繋がるドアをなんなくノブを回して開ける。
小鳥が右手を見やると、
手首には有重に握られた痕がくっきりと小鳥の病的なまでに白い肌に映えている。
 「早く来なよ」短い声が聞こえて小鳥が顔を上げると、
彼女から数歩離れた病院の中から有重は振り向いていた。
小鳥は急く事もせずゆっくりと有重の元に向かう。
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