ダルいズム。

□幻の絵
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 夕暮れ時の帰り道。
私は零斗くんと並んで帰っていた。
テスト前だから部活はなくて、でも零斗くんが勉強を教えてほしいと言うから今まで学校にいた。
私も成績がいい訳じゃないしあんまり役に立つとも思えなかったけど……。
零斗くんは私の頭でも役立つくらいの成績だった。
でも教え方も下手だから、今日できたのはテスト前の課題くらいで。
 コンクリートの塀の続く道。
ちょっと距離を開けて私と零斗くんは歩く。

「黒川、今日ありがとな」
「ううん。私こそごめんね。あんまり役に立たなくて……」

 零斗くんは申し訳なさそうに頭をかいた。

「そんな事ねえよ。先生も課題さえ全部出てれば赤点でも進級させるっつってたし」

 ため息混じりにつぶやく零斗くんがおかしくて私は笑った。
それでもだめなんじゃないかという思いが顔に出ている。

「明日も一緒に勉強しようよ。咲夜ちゃんと小鳥ちゃんも誘って」

 ね?と首をかしげると、零斗くんは少し複雑な表情を浮かべた。
眉間のしわが深い。
私はそんなにおかしな事を言ってしまっただろうか。

「……まあいいか」

 ぽつりとつぶやくとずんずん先に進んで行く。
脚の長い零斗くんに追いつくには、小走りになってしまう。
 ふと零斗くんが足を止めた。
一軒のお家の前。
他のお家二軒分より、もう少し広そうなお家。

「ここ、うち」

 ぽつりと零斗くんが告げた。
確かに表札に「里山」と書かれている。
友だちのお家なんて咲夜ちゃんのお家しか見た事がなかった私はしげしげと眺めてしまう。
 私のお家とも咲夜ちゃんのお家とも違う、言わば近代的な建物。
庭は広くて、でもあまり手入れがされている様子はない。
なんだか、あまり生活感はなかった。
塀から覗く、家ではない建物だけがやけに浮いて見える。

「ねえ、あれはなに?」

 私がその建物を指して言うと、零斗くんは顔をあげて、低い声でああ、と言った。

「俺のアトリエ……つったら立派すぎるな。部屋で絵描くと汚れるからって建てられた小屋」
「アトリエ?すごい、見たい!」

 アトリエなんて一般的にあるものじゃない。
しかも友だちのアトリエなら、より見たいに決まっている。
零斗くんが絵を描くことは知っていたけど、実際にどんな絵を描いているのかは知らなかった。
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