ダルいズム。
□生き人形に口付けを。
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うっすらと手首に並んだ白い痕を空にかざしながら目を細めた。
自分は空に翔び立つことの出来ない憐れな人間である。
空を駆け回る名前をいただいた自分は。
翔び立ちたい。
それは幼い頃に抱いた夢想に酷似していた。
しかし、今では意味が異なる。
この肌のように純白の翼があれば。
この髪のように漆黒の翼があれば。
全てを解放して私はこの大きな空のもとに身を踊らせるだろう。
翔ぶことが叶わなくても構わない。
必要なのは身を踊らせることのみだ。
「小鳥」
誰かの声。問わずとも分かる、聞き飽きたその声。
「あんまり端に立つのやめてよ。先生にバレる」
言われるが早いか小鳥はその場に腰をおろした。
「ここ、好きだね」
「一番そらに近いもの」
有重は何か言いたげに小鳥を見たが、小鳥は何食わぬ顔で屋上からの地面を眺める。
結局、有重は何も言わなかった。ただ小鳥の隣に腰かける。
「痕」
有重が指差したのは、小鳥の左腕に静かに整列した傷痕だった。
小鳥はああ、と小さく返事をしてまくりあげていたセーラーの袖をおろす。
「増えてない?」
「気のせいよ」
小鳥は答えた。