ダルいズム。

□学園の皇帝陛下
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 その時、俺は息を止めた。
時間が止まった。
その一瞬だけが永遠の中から切り取られ、そして永遠に止まった。
心は止まり、また心臓も止まりそうになった。
 止まってしまえば良かったのだ。
夢にまでみたその姿。
もう二度とこの腕に抱きとめる事ができないのならば、姿をとらえた瞬間に絶命してしまえば良かったのだ。
俺は世界で一番幸福に死ねたのに。
 そして或いは動き出した。
二十年も前から止まっていた俺の時間が、俺の心が、どきりという心臓の音に合わせて秒針を進めた。
それは、ひどく痛みを伴う動きだった。

「……綺麗」

 俺に気付いていないのか、彼女は薔薇を見てこぼした。
その声も記憶と寸分違わぬ音だった。
その一言だけで、俺はまた死ねれば良かった。
しかし俺の心臓は激しい痛みと共に動く。
 薔薇の園に進みゆく足はやはり変わらぬ美しさを放つ。
ああ、何一つ変わらない。
その柔らかに光を持った髪も、空に照らされて細められる瞳も、何もかも。
小さな身体、小さな顔。
あの頃から古風、と言われていた服。
俺の愛しい、愛しい人。
 
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