short story
□ある屋敷にて―言葉だけ―
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触れた頬は意外なほど冷たく、
そして意外なほど硬かった。
綺麗だよ、と。
声をかけてみても決してその桜色の唇から声を漏らす事もなく。
また、微笑みを零す事もなかった。
澄んだ蒼い瞳は硝子玉のように潤みを持ちけれど決して涙を流す事も長い睫に囲ませた瞼を閉じる事もなかった。
「愛しているよ、ラミア……」
豊かに波打つ金の髪を撫でながら、言う。
彼女がその愛らしい珊瑚の唇を動かして私もよ、と答えてくれる事を望みながら。
ラミアの瞳は虚空を彷徨い定まる事はなかった。
しかし彼は強く願った。
いつか彼女がその春の天空を思わせる眼を彼に向けておはよう、と、言ってくれるのを。