short story

□I'M GONNA LEAVE YOU
1ページ/5ページ

 
 ある日、いつも家にこもるのが好きな私の彼氏がこう言った。

「カラオケでも行く?」

 勿論私は二つ返事で承諾した。
最近カラオケに行きたくて仕方なかったのだ。
 腕を組みながら街を歩く。
そろそろ夏が始まり、本格的に暑くなるのだろう。
今は少しだけ暖かいような、そんな気温だ。
私はもうすぐ来る夏が大好きだった。
 二人で三時間唄うことにして部屋に入る。
彼氏は歌本をぱらぱらとめくりながら何を唄うか決めかねているように見えた。
私は先にリモコンをとって番号を入力する。

「唄ってる隙に曲いれていいからね」
「そのつもり」

 アップテンポのJポップ。
流行最先端の新曲。
曲が出て意味なんて考えずに歌詞を覚える。
恋の歌、愛の歌。私は何も考えずに唄う。
 曲が終わるまで彼氏は静かに私の唄を聴きながらまだ曲を選んでいた。
唄い終わるとようやく一曲だけいれる。

「いれてよかったのに」
「決められなかっただけだよ」
「ふぅん」

 彼氏の選んだ曲はゆっくりとしたバラードだった。
英語の曲で、私は歌詞の意味が分からない。
 ただ初めて聴く彼氏の歌声は素晴らしく上手だった。
囁かれるように優しい声。それでいて伸びやか。
 曲が終わって、私は曲を入れてない事に気付く。

「なんて曲なの?」
「天国への階段。昔の曲だから知らないと思うけど」

 ふぅん。私にはそれだけしか言えなかった。
 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ