short story

□世界で一番優しい物語を
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 忘れる事などなかった。
忘れられるはずなどなかった。
けれど私にとってそれはまとわりつき、身動きを封じてしまうだけの存在。
 忘れたかった。忘れられなかった。

「この間さぁ」

 口を開けば軽口ばかり。
本当のことを言ったためしなど一度もなく。

「俺空飛んだんだー、スゴくね?」
「はいはいスゴいスゴい」
「お前信じてねぇだろ」
「だってあんたの話嘘ばっかりだし」
「ウソじゃねぇって!マジの話!」

 結局彼が本当に空を飛んだのかどうか、私は今でも分からない。
分からなくても構わないのだが。
 だが、確かめたい。
本当かどうかなど関係ない。
ただ真偽を問いたいのだ。

「この間俺スゴいの見たんだって!」
「スゴいなに」
「えーと、ほら、その……とにかくスゲぇの見た!!」
「話をまとめてから来い」

 いつでも青空のように澄み切り、明るく、自由だった。
風のようにとどまる事を知らず、そのくせ小鳥のように私に寄ってきては騒ぎ立てる。

 
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