short story

□ある屋敷にて―俺とお前―
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 暗い夜だった。
俺は煙草をふかし、お前は酒を飲んでいる。
ここには俺とお前しかいない。
靴をはいた指先がじんじんと痛むような夜だった。

「たとえばこの場所にナイフがあって、それで俺がお前を刺したとしたら、お前はどうする?」

 突然の問いだったが、お前は面倒くさそうに酒の入ったグラスをテーブルにおくとまるで考えるかのように手と脚をを組んだ。
いつものフェイクだ。
そうして黙っておけば俺が諦めると思っているのだろう。
 飴色のテーブルにおかれた褐色のアルコールはお前の好きなお湯割りらしくゆらゆらと湯気をのぼらせている。
暖炉の薪が、ぱちんとはぜた。

「それは本当の話?それとも……」
「たとえ話だ。
知っているだろう、俺はナイフが嫌いだ」

 吸い殻を暖炉に放り込みながら言うと、ちらとそちらを見てからお前はグラスを手に取った。
 
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