short story

□エルドラドの死神
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 死神は金の国をさまよっていました。
何百年と人間の魂を刈り続けて飽きてしまったからです。
何か楽しい事はないだろうかと空を飛んでいました。
 すると森に女の子がいました。
女の子は濃紺の髪に濃紺の瞳、そして濃紺の服を着ていました。
その女の子は左手に青い小鳥を、右手に赤い小鳥をとまらせて、美しい声で歌を唄っていました。
その姿を見た死神は、女の子に恋をしてしまいました。
 死神の姿は女の子に見えません。
それでも死神は毎日森に行って女の子の歌声を聴きました。

「お前さんは人間に姿を見せる事が出来ないが」

 ある日、森に住む龍が死神に言いました。
龍は力ある生き物ですが、非常に穏やかで知恵深く、そして人間と一緒に暮らす事を好みます。
それでいて死神や精霊などの姿かたちのない力ある生き物を見て語り合う事ができました。

「そのかわりに儂らでは出来ない芸当をやってのける」
「なんだそれは」

 死神は問いましたが龍は自分のまわりをひらひらと舞う精霊を息で追い払うのに必死でした。
死神は枝の上に腰掛けて脚をぶらぶらさせていましたが、龍のそれ以上語る気がないと知るとひらりと飛び降ります。

「お前たちは自分の方が偉いと思っているかもしれないが、それは大した思い上がりだぞ。
俺は下等だが神で、お前たちは龍だ。お前たちには寿命があるが、俺にはそんな物がない」
 
  龍は鼻息でまわりの精霊を全て吹き飛ばしてしまいました。
そして目を閉じて、しかし片目だけ開きました。
精霊はもう戻ってきていて、龍のまわりをまたひらひらと舞い始めます。

「そんな事など思った事はない。儂らはただの龍だ。人間に触れる事は出来ても、人間になる事は出来ない」

 死神が鎌を回転させると近くにいた精霊がすっぱり切れてしまいました。
けれど他の精霊は気にした様子もなく、ひらひらと舞っています。

「意味の分からん事を」
「分かるさ。そのうちな」

 そう言って、龍は大きな欠伸をしました。
何匹かの精霊がその口に吸い込まれていきます。
けれど他の精霊は気にした様子もなく、ひらひらと舞っていました。

「力ない生き物の人間は死ぬ。力ある生き物の龍も死ぬ。
けれど力あるが姿かたちのない精霊も死神も死にはしない」

 龍が鼻息を吹き出すと、そこから何匹かの精霊が飛び出てきました。
そうしてまた舞いの列に加わります。

「……意味の分からん事を」
「分かるさ。そのうちな」

 そう言って龍は、一つ大きな欠伸をしました。
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