月喰いの夜刀

□月喰いの夜刀【十四】
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1.

「ん…」
 呻いて桑原が目を開けると、そこは真っ暗な部屋だった。
 立ち上がろうとして、腕も足も拘束されているのに気がついた。おまけに、やたらと首筋のあたりが冷たい。
 かすかながらそこから消毒用のアルコールの臭いがして、それが何故なのか考えているうちに、力が入らないのは、身体が縛られているからだけではなく、なんらかの薬物を注入された影響だと気がついた。
 目が慣れてくると、見覚えのある円が見えてきた。闇の中でも、桑原はある程度は暗視能力がある。
 だが、ここは例の地下室ではないらしい。天井が高くて、がらん、としている。円の奥には祭壇のようなものがあり、どうやら礼拝室のようだった。
(…ここは…六条の家か…)
 教会を買い取って自宅にしておいて、よりによって神聖なるかつての礼拝室を、彰比古は新しい『実験室』としていたのだ。
「やあ、こんばんは」
 いきなりドアが開いて、礼拝室に火のついた燭台を持った彰比古が入ってきた。
「…」
 蝋燭の灯りに照らされた彰比古がまるで魔法使いのようなフード付きの黒いロウブを身につけているのに、桑原は正直、あきれた。
「お前、カタチから入るタイプだな」
「これが正装なんです」
 本気で言う彰比古に、桑原は頭を抱えたかったが、その手はうしろに縛られている。
 彰比古はドアの鍵を閉めると、こちらを振り返った。
「さて、君はこれが何か、知りたかったのではないですか?」
 彰比古は燭台をかざし、地下室のものより大きい、円の姿を照らし、桑原に見せた。
「はじめは、そうだったさ」
 妖怪の召喚円にも似た、奇妙な円。特防隊も魔界のパトロール隊も、蔵馬でさえ首をかしげた、見たことのない円。





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