月喰いの夜刀

□月喰いの夜刀【五】
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2.

 暗黒武術会決勝戦。幽助の本当の力を引き出したいのなら、仲間の誰かを殺すことだ、という幻海の言葉を受けて、戸愚呂が生贄に選んだのは桑原だった。
 それに対して桑原は、逃げることも戦うこともせず、ただ、殺されるために、それだけの為に、戸愚呂に向かっていった。
 目論見は成功し、幽助は本来の力すべてを戸愚呂に撃ち込んだ。
 幽助の全力の霊丸を受け、戸愚呂は望み通り、自分の力を出しきることが出来た。
 桑原は心臓を抉られたかと思いきや、戸愚呂の指先は急所までは届いていなかった。
 それでも、闘技場の崩壊から逃げ出して、宿泊先のホテルまで辿り着いて、ひと安心した途端、桑原はぶっ倒れていた。
 そして、その傷痕もまだ残っている。だからこそ桑原は、勝てるはずの今でさえ、戸愚呂から威圧を感じているのだ。
「桑原。お前には感謝している。そのお礼に俺の飼い主に指名させてもらったんだがねぇ」
「そんな逆指名なお礼は要らねえよ!コエンマ、どうにかできねえのかよ、俺はイヤだぞ、こんなかさばるペットは!」
 しかしコエンマは、のろのろと首を横に振った。
「…この頸纈錠(けいけつじょう)は…装着した上でバックルの部分に最初に気を送ったものを唯一の主人として、首輪をしているものをその意思に従わせるべく作用する…主人に背けば首を締め付け、主人が不要だと思えば、死ぬまで絞め続ける…だが、外すことは主人にもできん…そのように造られてはおらんのだ…」
 コエンマは最初は放心したような表情であったが、説明しているうちに我に返ってきたのか、戸愚呂をにらみつけた。
「自分の命を、桑原に押しつけるとはな。確かに安全だろう、桑原はたとえお前であっても許してしまうだろうからな。だが、他の連中がこのことを聞いたらどう思うか、わからぬお前ではないはずだが」
「承知の上だ」
 戸愚呂は挑むように、顎をひいた。
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