晦日ノ月

□臥せ待ちの月【三】
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「少し冷たいだろうが、我慢してくれよ」
 桑原の背後で何かの蓋を開ける音がして、次に自分でも触れたことのない場所に、いきなり冷たい指が入ってきた。
「!!!」
 反射的に桑原の腰が逃げ、無意識のうちに拳が硬く握り締められる。
「…痛いのはイヤなんだろう?」
 耳元でささやかれ、暴れたくなる衝動を桑原はぐっ、と堪えた。こんな時でさえ、桑原は本当に律儀で一途だった。そんな桑原に戸愚呂の顔が柔らかく微笑む。
 戸愚呂は俗に言うローションの類を秘所に塗り込んでいるらしかったが、そうだとわかっていても、桑原には刺激が強すぎた。
 丁寧に塗り込められる度に、声を上げそうになる。戸愚呂はそれとわかっているのか、指先の動きが執拗だった。
 だんだんと桑原は鼻にかかったような、堪えきれない、息とも声ともつかぬものを吐いていた。
「指だけで随分と雰囲気出してるねぇ…やっぱり経験があるのかい?」
「て、てめーこそ、…んな、こと、どこ…で、誰、に…」
 息も絶え絶えに聞いてくる桑原に、戸愚呂は低く笑った。
「おや、妬いてくれるのかい?」
「だ、誰が…やっ…く…っ!」
 桑原は必死にそこにあった枕にしがみついた。そのうち破れるのではないかと思えるほど、力が込められている。
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