晦日ノ月

□臥せ待ちの月【一】
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 月のない夜空。
 厳密に言うと、まだ月が昇らない夜。
 その闇の下、施行した会社がとある犯罪に巻き込まれたために、建設途中で骨組みだけがそのままになっている、マンション予定地がある。
 その一画で、形容しがたい断末魔の声が、これまた明らかに人間とは違う異形のものの口から洩れた。
「裏切り者めぇ…」
 呪いの言葉を最後に、そのものはこと切れた。呪詛を投げつけられた相手の方は、一見、人間にみえる。
 大柄な体躯をコートに包み、夜にも関わらずサングラスをしている男…戸愚呂だ。
 彼の周囲には、5、6体ほどの妖怪が息絶えていた。いずれも彼の命を狙って来たもの達だったが、あえなく返り討ちとなってしまったようだ。
 だが、戸愚呂も無傷というわけではなかった。左肩からは血が流れ、どうやら噛みつかれたものを力まかせに剥ぎ取ったらしく、乱杭歯が残っている。
 右足の太腿には何かが貫通した痕があり、左手の小指が他とは違う方向を向いている。
 戸愚呂はため息をひとつついて、再生しようと近くのある積まれたままの鉄骨に腰を下ろした。
 その瞬間。
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