晦日ノ月

□臥せ待ちの月【二】
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「ば、ばかっ、てめえ、そういう趣味が…」
 戸愚呂はにやり、と笑った。
「お前だからだ、桑原」
 桑原は無言のまま左手で殴りかかったが、ひょい、と避けられてサングラスにかすった。
 はずみでサングラスは床に転げ落ち、そうして、桑原は初めて戸愚呂の目を見た。
「…!」
 戸愚呂にはいかついイメージしかなかったのだが、そのサングラスの下にある表情は意外と優しい。
 以前は怖くて見れなかった、彼の素顔。その顔が微笑んで近づいてきた。
 はっ、として気がつくと、再びキスをされていた。戸愚呂の顔に意識が集中していて気づくのが遅れた。
 なんとか逃れようと桑原は顔を左右にするのだが、戸愚呂の舌は執拗だった。口中のあらゆるところを責めたてられて、頭に靄がかかったような感覚がする。
「桑原」
 口唇が解放されて、名前を呼ばれた。その頃には悔しくて桑原は涙を浮かべていたのだが、それがまた恥ずかしくて顔を背ける。
「俺を見ろ。それとも…こわいのか?」
「なっ!」
 挑発に乗ってしまった桑原が見上げると、戸愚呂は驚くほど柔和な表情をしていたのだが。
「お前が欲しい。イヤなら、俺を殺すがいい」
 と、頸纈錠を指差して、残酷な選択を迫ってきた。
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