晦日ノ月

□臥せ待ちの月【四】
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「お目覚めかい」
 声がした方を見やると、タオルを手にした戸愚呂と目があった。
 戸愚呂はタオルをサイドテーブルに放ると、ベッドから起き上がった桑原の隣に腰を下ろした。
「気分はどうかね?」
「…最低だ」
 戸愚呂の問いに、憮然とした表情で桑原は即答した。戸愚呂は低く笑って
「…俺もまだまだ修行が足りないんだねぇ」
 と呟いた。
 桑原の身体は清められ、微熱も下がってはいたが、足がだるくて動くのが億劫で、どこかが痛みを発している。
「後悔しているかね?」
 桑原は目を閉じて、首を横に振った。
 戸愚呂の命を奪うか、戸愚呂に自分の身体を差し出すか。
 こんな無茶苦茶な選択に、桑原は後者を選んだ。
 桑原という人間ならばそちらを選ぶだろうと予想はしていたが、殺すまでにはいかなくても、首にある頸纈錠によって戸愚呂を苦しめることは出来たはずだ。
 だが、桑原は脅しの言葉ひとつ使わなかった。
 彼はかつての暗黒武術会における決勝戦と同じように、戸愚呂に身を委ねることを選んだ。
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